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現代美術家ヤノベケンジの活動情報です。(運営:KYSC)

「PANTHEON(パンテオン)=風神雷神の覚書」ヤノベケンジ

琳派とは何か?狩野派のように、身分、世襲、派閥、工房などによる技術継承が行われたわけではなく、京都を中心に非連続に受け継がれてきた感性の系譜である。その特徴を、大きく言えば、京都の王朝文化の洗練された装飾的な芸術が江戸時代の町人文化にも受け継がれ花開いたものといえる。

ただし、琳派400年と言ったときに、「光悦が家康から鷹峰の土地を拝領した元和元年(一六一五年)を琳派誕生の起点とし二〇一五年を琳派四〇〇年記念の祝祭の年としたい」と述べられているように、琳派が発足した正式な年代というのはない。

琳派を代表する作家は、概ね、三期に分けられる。本阿弥光悦俵屋宗達が活躍した桃山時代~江戸時代初期、尾形光琳尾形乾山が活躍した江戸中期、酒井抱一、鈴木其一が活躍した江戸時代後期である。それぞれ約100年の隔たりがある。四期があるとすれば、明治から昭和初期に琳派に影響を受け絵画、工芸、デザインなど手がけた神坂雪佳などが挙げられる。

琳派400年と言うのは、つまり、四期目から約100年後にあたり、再び、琳派の感性が花開く時期と言っていいのかもしれない。

江戸時代には、日本の政権が京都から江戸に移り、明治時代には天皇が東京に行幸されることで、京都は王朝文化の中心を喪失している状態であるといえる。しかしながら、今日においても京都は世界を代表する観光地として、多くの人々を惹きつけて止まない。

京都三大祭である、葵祭祇園祭時代祭に表されるように、由来の異なる祭りが年中行われ、四季を感じさせてくれる。その雅さや洗練は今日に至るまで継承されているといえる。

琳派が受け継いできたものを一言で表すと京都や日本が培ってきた「自然や季節の変化に対する鋭敏で繊細な感性」と言っていいだろう。

もう少し突っ込んで表現の共通点を言うと、目に見えないものを表すことといえるかもしれない。例えば、酒井抱一の『夏秋草図屏風』は夏の夕立によって草花がしなっている場面と、秋の野分の強風で草花が舞っている場面を見事に描写している。それによって、季節と雨と風という、そこに存在しているものの目に目えないものがしっかり描かれているのだ。

琳派の代表作は、言うまでもなく俵屋宗達本阿弥光悦酒井抱一などが描いた『風神雷神図』である。『風神雷神図』を描くことは、琳派を継承するもののイニシエーションのようなものかもしれない。

 

その元祖である俵屋宗達が描いた『風神雷神図』のモチーフは、三十三間堂風神雷神像や、『北野天神縁起絵巻』の雷神像など諸説がある。しかし、二対になっていることや、三十三間堂の著名さから言っても、三十三間堂風神雷神像を見てないということはないだろう。三十三間堂は、平安時代に末期に創建され、焼失後、鎌倉時代に再建されている。再建時には、鎌倉時代の代表的な仏師集団である慶派、院派、円派が参加している。中心にある千手観音菩薩坐像は、運慶の嫡男である湛慶が82歳で制作した名作である。

風神雷神像も鎌倉時代を代表する傑作であり、三十三間堂は鎌倉時代に花開いた日本最高峰の彫刻芸術が凝縮した空間だといえるのだ。

俵屋宗達三十三間堂風神雷神像をモチーフとしていたとしたら、風神と雷神の間には風や雨、雷だけではなく、二十八部衆に加え、千体もの千手観音菩薩立像や巨大な千手観音菩薩坐像が隠れていると言っても過言ではない。

私が彫刻家として琳派をモチーフにするにあたり、その遺伝子のもっとも中心にある『風神雷神図』が最初に彫刻から絵画へ転換されたことに遡り、400年の時を経て絵画から彫刻へと解凍する道を選びたい。

そこで400年間凍結していた絵画は、彫刻となって動き出し、隠れていた神々も復活するインスタレーション、「PANTHEON」となって花開く。

京都府立植物園は、日本で最初の公立植物園であり、明治時代までは雷の神様、賀茂別雷大神を御祭神とする上賀茂神社の境外末社である半木神社とその鎮守の森(半木の森)を中心とした田園地帯になっていた。現在は半木神社を中心に、賀茂川から引かれた水によって生育している日本の花と世界の花が入りまじり、世界中の花が新しい神様として人々に憩いと安らぎを与えている。まさに現代のパンテオン(万神殿)といえる。

琳派400年を祝うのにこれ以上最適な場所はなく、多くの蓮や睡蓮が植えられた京都府立植物園は、蓮華の上に座る千手観音も想起させるだろう。そして、琳派の代表的なモチーフであるとともに、日本と世界の神話や絵画のモチーフにもなってきた花をイメージした新しい神像としてローマ神話の花の神の名前でもある彫刻《フローラ》と、それを守り育てる新しい風神雷神を表現したい。フローラは、ボッティチェリの《プリマヴェーラ》をはじめ、多くの画家に描かれている。また、その由来から植物相を表す語原となっている。

さらに、この貴重な機会を得て、現代のジャポニスムともいえる「Kawaii」文化を牽引する色彩のアーティスト増田セバスチャンと、光のアーティスト髙橋匡太とコラボレーションすることで、制作方法についても共同制作の先駆者である琳派を見習いたい。

PANTHEON=風神雷神は、琳派の遺伝子を受け継ぎ、西洋文化に大きな影響を与え、さらに西洋と東洋の文化が混じり合いながら、融和している今日の京都に相応しいモニュメントになるだろう。